コロナ禍でPRはどう変化し、成功している企業は何が違うのか【アドテック東京2020「広告とPRの境界線」レポート・前編】

コロナ禍でPRはどう変化し、成功している企業は何が違うのか【アドテック東京2020「広告とPRの境界線」レポート・前編】
10月29日(木)「アドテック東京2020」にて、PRの最先端を担うスピーカーが集い「広告とPRの境界線」と題したトークセッションが行われました。株式会社吉野家のCMOである田中安人氏をモデレーターに、株式会社博報堂ケトルの代表取締役共同CEOの太田郁子氏、株式会社電通デジタル 代表取締役社長執行役員 川上宗一氏、株式会社ベクトル 取締役 吉柳さおり氏が登壇したセッションの様子をレポートします。

前編は、PR・コミュニケーションはどう変化しているのか、コロナ禍でPR施策がうまくいった企業にはどんな特徴があるか、PRと広告はどういう関係性であることが重要かについて議論が展開されています。

今、コミュニケーションはD2C化している

田中
ただいまから「広告とPRの境界線」と題して、モデレーターは私田中が務めさせていただいて、PRの最先端の方々をお招きし、50分間皆さんで議論していきたいと思います。

私は現在、吉野家のCMOをしております。僕は今PRが一番面白いと思っていて、今回事業会社側の立場で、最先端の方々と議論していきます。私自身が一番聞きたい内容ですし、オーディエンスの皆さんに少しでも言語化してお伝え出来ればと思っています。

では、お一方ずつ自己紹介と、事例の紹介をいただきたいと思います。まず川上さんからお願いします。
川上
皆さん初めまして電通デジタルの川上と申します。今日はよろしくお願いいたします。

電通デジタルは、電通グループの中でデジタルマーケティングを専門としている会社です。電通グループは、今国内でだいたい130社2万人ほどいるのですが、その中でデジタルマーケティングの中核企業として、2016年7月1日に設立し、今年の7月で丸4年、5年目に突入しています。社員数は約1500人、平均年齢32歳と若い社員が多いですが、デジタル業界なので前例にとらわれず若いアイデアでどんどん新しいことをやっていこうという会社です。

私は、1998年に新卒で電通に入社しました。そこから6年ほどマーケティングの仕事をしておりまして、自動車メーカーや化粧品会社を担当しました。その後8年ほどレコード会社を担当しました。アーティストを発掘して、デビューさせ、ヒットさせていくプロセスにおいて、広告、クリエイティブ、メディア、PRを掛け合わせ、紅白歌合戦出場やライブ満席などを実現するべく取り組んでいました。それから、食品会社の担当を4年程させていただき、ロングセラーブランドの販売戦略にも携わっていました。

今日は、デジタルとコンテンツ、ブランドの3つの視点から、広告とPRについて議論させていただければと思います。どうぞよろしくお願いします。
田中
ありがとうございます。続きまして太田さん、よろしくお願いします。

太田
博報堂ケトルの太田と申します。
私達は博報堂グループのクリエイティブエージェンシーです。私たちは「手口ニュートラル」というキーワードを掲げておりまして、クライアントさんの課題解決のためなら手口は問わず、課題解決に最も効くものをコアアイデアに据えて統合コミュニケーションをしております。加えて、「手口ニュートラル」ということで、CMやデジタルアドだけではなく、ドラマやメディアをつくったり、ときにはアワードを立ち上げたり、アパレルブランドをつくったり、新しい行動習慣までつくっていったり、あらゆる手口を尽くして課題を解決していくということを私たちの誇りというか、DNAにしております。

PRオリエンテッドなキャンペーンを得意としている会社でもありまして、見ていただいている方もいらっしゃるかもしれませんが、高崎市のシティプロモーションで「絶メシリスト」というコンテンツを立上げ、それが今テレビドラマになったり、汐留に食堂を立ち上げさせていただいたりしています。あともう1つ新しい事例といたしまして、今日私も着ているのですが、繊維商社の株式会社ヤギさんが開発された抗ウイルスのテキスタイルのプロモーション、ブランディングを手伝っております。それに「ビブテックス(VIBTEX)™️」という名前を付け、本当であればBtoBで売る商材ですが、そのPRのためにアパレルブランドを立ち上げ、洋服を売りつつ、それをテコにしながら生地を売るというようなこともさせていただいています。
田中
続きまして、吉柳さんお願いします。

吉柳
ベクトルグループの吉柳と申します。よろしくお願いします。私は大学生の時に、ベクトルの創業に参画しまして、なのでPR歴うん10年という経歴です。ベクトルグループはもともとはPR会社ですが、現在グループ内にはPR事業だけでなく、マーケティングソリューションを提供する会社を中心に42社あり、PR事業は昨年度決算でその半分程度の事業規模です。多くのグループ会社がありますが、新しく事業を起こすときにはPR視点でソリューションをつくるというのがベクトルグループの特徴です。このように変化し、拡大してきた背景にはPRの役割の変化と多様化があります。「認知の入口をつくる部分の課題解決」という従来の役割から、クリエイティブ全体をPR視点で考えたり、コンバージョンまで一緒に背負いながら全ての課題をまとめて解決したいときに、自分たちの領域(=従来のPR)だけでは足りなかったんです。その足りない部分を補う形でサービス開発し、事業化してきた結果、多くの会社が立ち上がっています。グループ全体で1500名ほど在籍しており、先日、PR事業部門でアジアNO.1のPRファームになりました。

昔、「モノを広める」手段というと広告が大前提だったと思います。しかし、PRを軸に据えた手口論や手段が多様化している中で、私たちはオウンドメディアをつくることもPRと定義しますし、デジタルマーケティングでコンテンツをターゲットユーザーに届けることもPRと呼んでいます。クライアントさんのコミュニケーション課題を最適な手法で解決するために様々な手口があり、PRの定義もまさに変わってきている。こういう背景から、いろんなサービスを立ち上げてきたのがベクトルグループです。
田中
ありがとうございます。「今なぜPRが重要なのか」という議論をしていきたいのですが、冒頭吉柳さんから簡単にご説明をお願いします。

吉柳
はい。皆さんご存知だと思うのですが、特に日本でPRというと「パブリシティ」というメディア露出のことを指し、定義されることが多かったと思います。

私たちベクトルも、昔は主にそういったパブリシティの獲得を中心とするサービスを展開していました。例えばプレスリリースを作成して、PR TIMESを利用してメディアに配信し、その先に期待するのはメディアで取り上げられ、最終的にテレビを中心としたマスメディアで紹介されること、メディアで話題になることをPRと定義していたと思うのです。このような従来の手法も有効である一方、最近変化が起きています。

簡単に言うと、「コミュニケーションのD2C化」が起きていると思います。これはあくまで出口論、アウトプットの話なのですが、これまでのPRパーソンはメディアに露出することからの逆算設計で戦略やコンテンツを考えていました。しかし、現在はPR視点で考えた商品・コンテンツを中心に据え、その情報が自走して伝播していくような企画設計をしていくのですが、それを、まずは生活者にダイレクトに届くように設計する。それが自走したり社会現象が起きたり、言語化されたり記号化したり、態度変容が起こることで、最終的にマスメディアでアーカイブされるという情報流通を設計するのが今のPRです。つまり、パブリシティのことを言うのではなく、コンテンツをPR視点でつくること、そして時系列のコンテンツデリバリー設計していくことを「今のPR」と位置づけています。

コロナ禍でPRのニーズ、消費者との関係性はどう変わっているのか

田中
ありがとうございます。ここからは皆さんとクロストークしていきたいと思います。まず今のコロナ禍において、市場変革やPR視点の重要性がいろんなところで叫ばれていると思います。これを皆さんと言語化していきたいと思います。太田さん、このコロナ禍におけるPR視点の重要性について、こんな事象でこんなふうに考えた、ということがありますか?

太田
話の入り口をもう少し遡ってみたいと思います。PRを語るときに、この業界にいるとよく聞くキーワードなのですが、「アウェアネスは取って当たり前」「認知させるためにPRをやるのは当たり前」、その次に何かというと、“パーセプション・チェンジ(態度変容)”という話があって、「こう思っていたものが、実はこうだったんだ!」という風にイメージが変わったり、価値観、考え方が変わったりすることをPRのゴールにされることがあります。また、一番先の“ビヘイビア・チェンジ(行動変容)”、「みんなの行動習慣が変わる」こと。例えば電車に乗って通勤していたのが、通勤しなくなるようなそういう行動変容を生み出すのが、PRの究極的ゴールだという「論」みたいなものがあります。

それは遡れば、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルに「PR」という部門ができた頃ぐらいから語られている話なのですが、そうなってくると、このコロナ禍というひとつの世界的な危機を乗り越えるときに、みんな一丸となって今まで当たり前だと思っていた行動習慣を捨てようとか、コロナ禍の問題に限らず、海洋プラスチック汚染や地球温暖化のようないろんな社会課題を解決していこうという機運が高まっているときに、これもPR業界で“合意形成”というのですが、みんなの価値観や目線を合わせていくところにPRのテクノロジーが効いてくるので、「外出しないようにしようよ」というある種社会の危機を乗り越えるために、今改めてPRは重要だなと、マーケティングサイドというよりは、社会的課題解決の観点から思います。

田中
ありがとうございます。吉柳さん、いかがでしょうか。

吉柳
コロナショックによって多くの企業の業績が低迷する中で、PRでサポートして欲しいというニーズが急増しまし、社会的にPRの重要性が高まった感覚がありました。ここ数年で、PRには様々な機能が内包されている事実が認識されてきていて、そのニーズが顕在化したのがコロナ禍当初の4、5月ぐらいだったと思います。例えば太田さんが仰ったように、新しい合意形成を創るとか、新しい市場を創る点においてPRは非常に機能します。

これは弊社の実施事例ではなく、客観的に素晴らしいPR視点だと思ったのが貝印さんの事例です。実は、インドで爪切りが飛ぶように売れているらしいのです。インドの方々は食べ物を手で食べる習慣があるにも関わらず、爪を切る習慣がありません。新型コロナウイルス対策として、手指や爪をキレイにしておかなければならないという気づきに対するソリューション、プロダクトとして、「爪切りで、爪を切りましょう」と。このように、プロダクトの新しい社会的ニーズをPRの視点、社会課題視点で捉えた上で、企画を設計していくんですね。実際には、まず公立の学校や警察に無償で5000個の爪切りを配布し、教育現場からみんなが爪を切るという行為を習慣化します。次に、その社会現象がメディアに取り上げられ、インド人が皆爪を切るようになり、そして爪切りがヒット商品化したのです。

私たちは普段このような仕事をクライアントと併走し、実施しています。市場をドライブさせたり新しい市場を見つけていくためは、社会的なニーズを見つけて、商品の価値に対する新しい気づきを創っていくことが重要なのです。このコロナ禍で様々な商品やサービスが、必要になったり、必要ではなくなったり、さらにグロースしたりと、市場変化があったと思うんですね。まさにこういう時こそ我々PRパーソンの出番とも言えるので、このコロナ禍でも非常に忙しかった実感があります。
田中
川上さん、いかがでしょうか。

川上
今お二人が仰られたことと一部重複するのですが、今年1月、COVID-19が出てきて、その後、外出自粛要請などが出て、みんな自宅にいる時間が増えた。その中で顕著に、ソーシャルメディアの利用率が急激に上がったんですよね。

これはTwitterの方だったり、FacebookだったりTikTokの方と話していても、圧倒的に上がったと仰っていました。外出できないのでみんなずっとスマホを使っていたのです。さっき吉柳さんが仰ったように、もともとPRはテレビにどう出すかという話が多かったのですが、今は、ダイレクトに消費者と企業が語り合うというD2C PRになっていて、その消費者のネット上の数が劇的に上がったということですよね。

そういう意味では、今年PRというものが非常に価値を持つようになったというのは、去年と今年の大きな違いだと思います。その理由はソーシャルメディアのユーザーが圧倒的に増えたから。ダイレクトに、人と人がフィジカルに接するのではなく、ネット上で声が届いて広がっていくという文化になっていったからだと思うんですね。

今日10月29日時点で、弊社ではコロナ禍以降に15回の消費者定点調査を実施しているのですが、社会がどう変わったかというと、私自身の読みでは、9月のシルバーウィークを潮目にしてガラッと変わったと思います。

皆さんもなんとなく感じているかもしれないのですが、8月までは自粛ムードがとても強かったと思うんですよね。社会の雰囲気も自粛警察など緊張感が漂っていた印象があったのですが、やはりシルバーウィークでみんな外出しても、それほど新型コロナウイルスの大幅な感染拡大に及ばなかったというのが意識の変容を生んだのだろうなと思っています。

直近の10月の調査ではついに、「自分自身の生活において」の項目で、活動再開派が自粛派のスコアを超えたんですね。確かその自粛派が46%で、活動再開派、もちろんケアしながら活動を再開するというのが53%という感じで、結構みんながアクティブになってきている。その中でGoToキャンペーンが東京都にも適用になり、どんどん広まって、鬼滅の刃のようなポジティブなニュースも出来てきて、社会全体がポジティブになってきたときに、さぁでは我々はどうすればいいのか?というのが今日まさに最新の、PRパーソンが考えるべきことですね。

このタイミングで仕掛けるのか、いやまだ早いぞ、もうちょっと大人しくするべきかというのは、この46対53の潮目をどう読むのか。そして年末・年明けにかけてどう仕掛けていくのかというのが、いま弊社でもクライアントさんと日々話しているというところになります。

その中で先ほどの社会課題をどう解決していくかとか、もっと小さく自分のリビングルームをどう快適にするかとか、クライアントさんの業種によっていろいろな課題があるので、そこはいろいろディスカッションしながら取り組んでいます。
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