企業と社会のコミュニケーションが増大する時代の、PRの本質とは【アドテック東京2020「広告とPRの境界線」レポート・後編】

企業と社会のコミュニケーションが増大する時代の、PRの本質とは【アドテック東京2020「広告とPRの境界線」レポート・後編】
10月29日(木)「アドテック東京2020」にて、PRの最先端を担うスピーカーが集い「広告とPRの境界線」と題したトークセッションが行われました。株式会社吉野家のCMOである田中安人氏をモデレーターに、株式会社博報堂ケトルの代表取締役共同CEOの太田郁子氏、株式会社電通デジタル 代表取締役社長執行役員 川上宗一氏、株式会社ベクトル 取締役 吉柳さおり氏が登壇したセッションの様子をレポートします。

後編は、PR施策を検討するときに重要なポイント、成功するチームは何が違うのか、PRで大切なこと、そしてPRの本質とは何なのかについて議論が展開されています。

※前編はこちら:【前編】コロナ禍でPRはどう変化し、成功している企業は何が違うのか

社会的なインサイトを見つけた上でのPR設計が肝

田中
吉柳さんのところの事例で「社会的な価値、共感を創造するコンテンツ」があるということで、吉柳さんからご説明お願いします。

吉柳
今の世の中の風潮を読んで、ソーシャルグッド、社会的なインサイトを見つけて企画を設計するというのが、今のPRにとって非常に重要です。

弊社ではメルカリさんのPR支援をしているのですが、これから紹介するのは7月に実施した事例です。重要なのは、ブランドが訴求したいメッセージと連動できる、社会的なインサイトや時事的なインサイトを発見し掛け合わせて、その中央に存在するコアアクションを考えていきます。これは2020年7月1日からの「レジ袋有料化」という時事性を掛け合わせました。
吉柳
コロナ禍で、メルカリさんは需要が伸びたんですね。外出自粛中に家の中を整理し、フリマアプリを使ってCtoCで販売する人が増えたためです。先ほどの吉野家さんのお話と似ていますが、メルカリさんは創業時から「全てのモノに価値がある、モノがきちんと世の中に流通し循環するエコシステム、社会を実現したい」をビジョンとして掲げ、ことあるごとに発信されているんです。元社長の小泉さんも、とにかくPRが大切だと仰っていて、広告やPRのクリエイティブを小泉さん自らチェックされるほどPRドリブンな会社です。

そこで、7月1日からの「レジ袋有料化」とメルカリが掲げる「全てのモノに価値がある、捨てる必要はない」というメッセージを掛け合わせ、「本来、使ったあとにはゴミになるレジ袋でさえ価値があるんだよ」という気づきを与えるために、吉本ばななさん、伊坂幸太郎さんなど日本を代表する10名の作家の皆さんに、このレジ袋に掲載するオリジナル小説を書き下ろしていただいたんですね。

そしてナチュラルローソンさんとコラボレーションし、ナチュラルローソンの店舗で7月1日からの2週間程の期間限定で実際に「読むレジ袋」として使用していただいたんです。それで何が起きたかというと、設計した通り、SNSでは数十万件のツイート、905万以上のエンゲージメントを獲得できましたし、テレビは13番組で取り上げられマスにリーチすることができました。

しかし、やはり最も大事なのは、そのコアアクションだと考えています。この企画に生活者が巻き込まれて実態ができていくことこそがPRです。そして、メルカリさんが実施しているという事実も伝わっていくのでブランディングとしいての価値もあります。ビジョンをコピー的に掲げてホームページに載せたところで、生活者にとってそれが腑に落ちるという体感はできないんですよね。皆が巻き込まれるモノや体験を作り、SNSで目撃され、報道を巻き込んでいくという情報流通設計をする、これがまさしくソーシャルイシューを起点としたクリエイティブを軸に展開したPR事例です。

クライアントとエージェンシーが「同じ目線で社会と勝負する」

田中
そういう意味でいうと、太田さん。PRが上手くいく会社の企業体質のようなものはあるでしょうか。

太田
私たちはよく「手口ニュートラル」を掲げるので、それがPRドリブンかどうかは置いておいたとしても、誰もやったことのないことを提案しがちなんですよね。そのような提案に対し、「その方法でどれくらいの効果が見込めるのですか?」という質問をいただくことがあります。もちろん、数値目標は非常に大事なのですが、PRにどのくらいの定量的効果があるかを現状のテクノロジーで100%算出することは不可能です。ですから、ある程度は「企業として何が必要で、何がやりたいか」という意志が求められることになります。やるべきこと、やりたいことの軸が明確なクライアントであれば、パートナーとしてPRの戦略をともに考え、ともに実行していくことができると考えています。

田中
川上さん、そういうのはデジタルで表層化ができないのでしょうか?

川上
数字で示しつつ、数字以外の定性的なところでも示す、その両軸が必要だと思いますね。数字だけだと、なぜそれが売れているのか、なぜそれが必要なのかが置き去りになり、その凸凹しかみえないので、それだと半分しか意思決定できないのです。その中身を知ることで正しい意思決定ができると思います。

その両方をクライアントの方々とエージェンシーが分かち合えると、これは一番強いPR体制になると思っています。実はすごく難しいことで、クライアントの方からエージェンシーに受発注の関係でオリエンをし、そして我々がプレゼンをし、形にしていく、このやりとりが実はそんなに上手くいくわけではないのです。それが2010年代のこれまでの広告代理店とクライアントの関係値ではあったと思うのですが、やはりそこは変わるべきで、クライアントの方とエージェンシーのスタッフが商品開発から同じ目線で社会と勝負するという、ここの信頼関係を作っているチームは強いです。

先ほどのスピードの話にもありましたが、「この人が言うからやろうよ」というところはやはりあります。弊社グループの事例ですと、今年、生徒らがリモートで合唱を行う清涼飲料水のCMを手掛けたのですが、もともとはインターネット上だけで展開する企画だったのが、もう5年間一緒にやってきたクライアント企業と弊社の制作チームの信頼関係があって、すぐやろうとああいう形になったのです。その5年間がないとできなかったと思います。
田中
それはクライアント側に成功体験があるから判断できたのでしょうか?

川上
あとは一緒にもの作りというか、世の中に向き合ってきたというリレーションがあるからだと思いますね。

吉柳
PRの成功体験をたくさん持ってらっしゃる企業なので、判断がとても早かったのだと思います。

田中
この事例もそうですが、基本的にはそのビジョンが明確で、パーパスが明確で、それが行動にまできちんとつながっていることが、正解な気がします。だけど片や、どんどんコンテンツを回し、PDCAを回して均一化していくと各社が競争になっていくじゃないですか。そのときにPR視点がとても大事ですよと。PRも今どんどん変わってきていて、極端な話、広告とPRの境界線は、僕はもう溶けていると思うんですね。定義自体が変わっていると思うので。
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